青春ノ帝国/こんぱるいろ、彼方 ~おすすめ本紹介(4)

小学校高学年~中学生のお子さんに読書をして欲しいけれど、どんな本を勧めればよいのかわからない・・・というお悩みをお持ちの保護者さまに本をご紹介するシリーズです。

中学入試で出題されそうな本、過去に出題された本も交えてご紹介します。

第4回目にご紹介するのは「青春ノ帝国」(石川 宏千花著, あすなろ書房)と「こんぱるいろ、彼方」(椰月 美智子著, 小学館)です。

青春ノ帝国

基本情報

出版社 : あすなろ書房
発売日 : 2020/6/25
中学入試での出題:未確認

※過去にこの学校で出題されているよ!などの情報がありましたらぜひお気軽にこちらのフォームからお知らせください。

こんな本です

中学校で教師をしている関口佐紀のもとに、ある日かかってきた1本の電話。
その主は、佐紀が14歳の頃、秘かに心をよせていた人でした。

”美しい”という言葉だけではとても言い表せない日々を、ともにみっともなく戦った、いわば「同志」。そんな彼からの電話をきっかけに、14歳の頃の記憶へと飛んでいく佐紀の回想録がほぼ全編を占めるお話です。

美しい人、素敵な人に抱く憧れと、それゆえに激しくなる憎しみ。
他人の目から自由になれず、自分がどう見られるかに終始してしまう思考。
自分が断罪されるのを恐れつつも、他の誰かに対して同じことをしてしまう愚。

どうしようもなく矮小な自分の心に絶望しながらも、周りの人から影響を受けたり、同級生とぶつかったりしながら、少しずつ成長する14歳の佐紀は、生きることは「なんて惨めで、なんて底がなく、なんて救いがなく、そして、なんて美しいものなんだろう」(p183)と気付いていくのでした。

こんな人におすすめ

大人から見るとその若さがまぶしくうらやましい10代ですが、本人たちの心は自意識や劣等感、正義感、愛憎といった感情に振り回され、自分に嫌気がさすことも多いもの。

そんな年代のお子さんたちに読んでいただけると良いのではと思う本です。特に女子は、佐紀がクラスメートとかかわるシーンに共感をおぼえるのではないでしょうか。

好きなシーンは

151ページからの、佐紀と上原さん、峯田さんのシーン。「自分以外の誰かと、まったく同じ分量でおたがいを求めあうということ。それは、世界のすべてを手に入れたも同然のことだった」(p161)という記述は、「イーブン」(村上しいこ著)も想起させます。

では、「自意識や劣等感、正義感、愛憎がないまぜになった心」つながりで、もう1冊ご紹介します。

こんぱるいろ、彼方

基本情報

出版社 : 小学館
発売日 : 2020/5/19
中学入試での出題:未確認
※過去にこの学校で出題されているよ!などの情報がありましたらぜひお気軽にこちらのフォームからお知らせください。

こんな本です

大学生の娘・奈月と思春期の息子・賢人。そして夫とともに暮らす平凡な主婦、真依子にはひとつの悩みがありました。

自分がボートピープルとして日本に来たベトナム人であることを、いつ子供たちに伝えるか。

伝えたらショックを子どもたちがショックを受けるのではないか、学校でいじめられるのではないか…そんなためらいから先延ばしにしてきたことが、明らかになる日がついにきました。大学生の娘・奈月が、夏休みに友人とベトナム旅行に行くと言い出したのです。

パスポート申請時に取得した戸籍謄本を差し出し、意を決して奈月に告げる真依子。それを聞いた奈月の反応は。そしてその後にとった行動は――。

こんな人におすすめ

高校生以上のお子さんを持つお母さんが読むと心に響くのではないかなと感じる、大人向けの小説です。精神年齢高めの中学生、高校生の女子にも読めるかな。

ボートピープルやベトナム戦争、移民といったテーマに親しむきっかけとするのなら、中学生や男子でも読みやすいかもしれません。

好きなシーンは

母を断罪する残酷さと自分のルーツとまっすぐに向き合う真摯さをあわせもつ奈月。その後ろ姿を見ながら「もしかしたら、今日が子育て卒業の一次試験だったのかもしれない」(p116)と真依子が思うシーン。

ベトナムから帰国した奈月が、自分の正義感や常識が相対的なものに過ぎないと気づくようになったことがわかるシーン(p251以降)。

いずれも、真依子と奈月が「自意識や劣等感、正義感、愛憎がないまぜになった心」から少し自由になったことが感じられました。

いかがでしたか?
皆さんのご参考になりましたら嬉しいです。
それではまた次回!

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