この記事は、文化放送PodcastQRで毎週月曜日に配信されている「【中学受験】おおたとしまさの『校長室訪問』」の内容を、確認クイズ付きでWeb再録したものです。
配信内容を書き起こすとともに、その一部を「穴埋め(ブルダウン式の三択)」クイズにしております。
番組を聴きながら穴埋めを完成させて、楽しみながら学校への理解を深めていただければ幸いです。
今回お届けするのは、
成城学園中学校高等学校(東京都 世田谷区)の校長、中村 雅浩 先生のお話です。
番組の聴取は下記より↓↓
【大切なお願い】
※このWeb再録は、「【中学受験】おおたとしまさの『校長室訪問』」をより楽しんでいただくための取り組みとして、文化放送様の許諾をいただいて実施している特別企画です。
クイズを楽しんでいただいたあとは、ぜひページ末尾のアンケートフォームから、番組のご感想やリクエストなどをお送りください。
この企画を続けていくことができるかは皆さまのお力にかかっております。ご協力、どうぞお願いいたします!
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Topics1:学校の概要
生徒と先生が「同じ方を向いている」学校
おおたとしまさ氏(以下、おおた):
それでは成城学園中学校高等学校の校長、中村 雅浩先生にお話をうかがっていきましょう。中村先生、よろしくお願いします。
成城学園中学校高等学校
中村 雅浩 校長先生(以下、中村):
よろしくお願いします。
おおた:
名前は皆さんご存じと思いますが、まずロケーション的にはどういったところにあるのか、最寄りの駅や周りの環境を教えていただければと思いますがいかがでしょうか。
中村:
成城学園中学校高等学校は、世田谷区の西にあります。世田谷区って結構広いですよね。
おおた:
広いですよね。
中村:
西のほうにあるんですけれども、ほんとにこのあたりは落ち着いた住宅街です。最寄り駅は小田急線の成城学園前。歩いて4分ぐらいでしょうか。駅から正門までよりも正門を入ってから学校の中高の校舎までのほうがもしかしたらちょっと長いかなと思います(笑)。
おおた:
それは面白いですね(笑)。
中村:
遅刻して来る生徒は「なんで中高は一番奥にあるんですか」なんていうふうに言ったりしますけれども(笑)。それは早く来なさい、と言っていますが。もともと成城学園がこの場所にできた後に小田急線ができたという形で、駅の名前も「成城学園前」という駅で、急行も止まっていただけるようなそんな場所にあります。
おおた:
そういった場所にある成城学園中高さんですが、学校の特長といいますとどんなところが挙げられるでしょうか。
中村:
これは僕にとって難しい質問だなと思うのですが、いわゆる建学の理念やカリキュラム、最近取り組んでいることというお話をいっぱいするよりも、なんとなく僕が普段おもっていることをお話させていただければなと思います。
成城学園って、これ、ほんとにイメージみたいな言葉になってしまうのですが、生徒と教員…先生が同じ方向を向いて何かをやっているとか、同じ方向を向いている場面が多い学校だと思うんです。ちょっと、かなり漠然とした言い方になってわかりにくいかもしれないのですが。
具体的にどんなことかというと、たとえば、特色のある行事がいくつかあるのですが、かれこれ30年ぐらい高等学校で修学旅行ってやっていないんですよ。教員が企画をたてて生徒を募集して集まったら成立、という少人数のグループ旅行をやっているのですが、そのグループ旅行自体が結構バラエティに富んでいて。ある先生は天文台に行って一晩中星を見ようとか、ある先生はとにかく北海道に行って本気のキャンプをやってみようとか。一方で修学旅行の代わりなのに学校に来てロボットのプログラミングをしてみようとか、乗馬もありますし屋久島もいきますし…といった形で、先生たちの興味で生徒たちに応募してもらって。それで一緒に出掛けていって何かをするという。だいたい教員と生徒が同じ方向を見て同じものを見て(中略)。
僕自身、理科で生物の教員なのですが、若いころは「野生のニホンザルを見に行こう」と言ったり。そういう象徴的な行事なのですが、これは別に行事だけでなく、普段の学校のなかの姿勢でも同じ方向を向いている――教室はどうしても対面になりますが、姿勢だとかそういったところで同じ方向を向いている場面が多いなというふうに(思います)。ちょっとわかりにくい表現ですけれども。
おおた:
教室の中では対面になってしまうけれども、色々な場面で同じ方向を向いているというのは、なんとなくイメージは湧きますね。なにか、上から下からとかという関係ではなく、横に並んで同じ興味・関心をもって…という先生と生徒たちという、そういうイメージが伝わってきました。先ほどのユニークな旅行って、研修旅行とおっしゃいましたか?
中村:
私たちはずっと前から「課外教室」という名前で呼んでいます。高校3年間のうちに一度参加すればいいよという形で。本当にバラエティに富んでいるのですが、多い生徒は5回ぐらい行ったりしますしね。
おおた:
宿泊を伴う課外教室ということで…
中村:
宿泊を伴わないような企画もあるんです。
おおた:
先生がまずノリノリで企画するやつですね!
中村:
そうですね(笑)。それはひとつの例なのですが、他にも、中学生全員にたとえば本当に北アルプス3000m級の登山をさせるような行事でも「一緒になって朝日がのぼってくるのを見よう!」と、こういうのも成城学園らしいなと。学習面でもそういった姿勢で取り組んでいることが多いかなと思います。
おおた:
その代わり修学旅行がないというのも、これもひとつの文化ですよね、きっとね。
中村:
中学校ではたとえばクラス単位だとか学年単位の行事はあるのですが、修学旅行に近いものも中学校ではあるのですが、高校に入るとやはり個別の興味に応じてという形で。学年もクラスも全部とっぱらってしまって。ここ30年ぐらいの伝統になっていますね。
おおた:
30年前まではやっていたものを、これきっとやめようよという議論があったのだと思いますが、それってどういう価値観での判断だったのかうかがってもいいですか?
中村:
この課外教室の前身になっていた「夏期セミナー」というものがありまして、それは臨海実習ですとか島崎藤村について調べようとか、そういう行事があったんです。それを発展させられないかということを当時の先生たちが考えられて。僕が成城学園に来る少し前にこの課外教室が始まったのですが、作った当時の先生たちは「こんなに長く続くとは思っていなかった」と言ったりされていましたが。非常にユニークな行事として続いています。
おおた:
たぶんその当時は「こんなことやってみよう」で始まったのでしょうが、それが学校の文化とか価値観にすごく合っていて、ひとつの伝統として成長していった。そうやって歴史のある学校は進化していくんですね。
Topics2:沿革
天才を伸ばすのではなく、天分を伸ばす
おおた:
そういった成城学園中高さんですが、歴史的にはどんな生い立ちがあってどんな歩みを経て現在の形になったかうかがっていきたいと思います。
中村:
おおたさんはよくご存じかもしれませんが、澤柳政太郎という明治から大正にかけて活躍したある意味教育学者でもあり教育行政を担ってきた人物が創立者です。かなりおおざっぱに言うと、日本の公教育…義務教育の基礎を作った人間です。澤柳の業績の中ではそれはほんの一部かもしれませんけれども、非常にベーシックな部分、スタンダードな部分を作った人間。
ちょっと細かいことですけれども、「学校には運動場が必要だ」というようなことを明治時代に決めていったりだとかした、今では本当に当たり前になっていることを、その当たり前を作ってきた人間なんですね。
おおた:
逆に言うとそれ以前は運動場ってあったりなかったり…?
中村:
大前提でいうと、小学校の学齢の子が働いたりしていたんですね。それを禁止したのにも澤柳の貢献が大きくて。いわゆるスタンダードとか標準を作る中で、どうしても国の政策ですから画一化されていくと。このあたりは大正自由教育という考え方とリンクしてくる部分がとても大きいし、澤柳はその先頭に立っていた人間ですが。公教育・普通教育を改善していくための実験校として、成城学園の元になった成城学園の小学校、1917年に作りました。
面白いのですが、他の学校はよく、大学から附属の高校を作って…ということが多いですが、成城学園は小学校から中学校、高等学校――旧制七年制高等学校ですが――そのあと大学ができたという形で。小学校(初等学校)の先生たちは「大学のほうが附属だよ」なんて言ったりするような流れでできてきて、いまだに「下から積み上げて行く」という成城教育の大切さをずっと続けています。
画一化ではなく個性を大切にしてきたいという実験校の流れが続いていますので、澤柳先生の言葉なのですが、「天分教育」――天才を伸ばす教育ではなく、各生徒たち・子どもたちが持っているいわゆる才能(才能という言葉はちょっとずれるのかもしれませんが)を見つけて伸ばしていこう、というそういう学校にしたいという伝統、考え方は今でもしっかり受け継がれてきていると思います。
ですから、色々な体験をさせていくということも、先ほど行事のお話もそうですが、個性、生徒たちが伸びるようなという形で行事や学校カリキュラムを設計している、それが中心になっている。それが学校がつくられていままで受け継がれていることですね。
おおた:
澤柳政太郎さんという人は、日本の学校制度の基礎を作った一方で、すごくリベラルな方で。大正自由教育と呼ばれる、従来型の教育ではなくもっと子どもを中心にした教育の方法があるんじゃないのかという運動の中心地としてこの成城学園が当時おそらくあって。そこから色々なリベラルな学校が派生しましたものね。
そういう歴史がありますし、あと、ちらっとお話がありましたが、旧制七年制高校。一時期だけにあったすごくユニークな学校制度。今でいえば中高一貫校みたいなものですよね。小学校にあがってからの7年間でそうすると12歳でそこに入るとその時点で帝国大学への入学がほぼ確定するという制度、いわゆる本当にエリートのルートとしての学校で、私立としては4校しかなかったという学校でしたよね。
中村:
そうですね。
おおた:
そういう特殊な学校であったからこそ、大学受験に振り回されない教養教育が実践できていたという。それも今の礎(いしずえ)になっているかなという感じがしますね。
中村:
使い古された言葉かもしれませんが、リベラルアーツという考え方が私たちの根底にあるのかなと思います。
おおた:
本当ですね。
Topics3:保護者様へのアドバイス
ただ「ほら」と言って指をさすだけなんです
おおた:
そういった教養教育を重んじているという成城学園中高さんですが、成城学園中高流の教育のエッセンスみたいなものをなにか一般のご家庭の中でも活かす、子育てのヒントみたいなものをいただければと思うのですが。
中村:
私たちが大切にしている天分教育、個性尊重といった時に、まず――これは成城学園に限らずだと思うのですが――子どもに対して、親も親自身に対して・子どもに対して、色々な先入観を持たないようにするという。
これ、なかなか難しいんですよね。教員ってこうあるべきだとか、こういうものをやらせたいとかという(考えにとらわれる)ことが多いのですが、子ども達に対しても、それから自分自身に対しても、先入観を持たないで接すること、考えることって大事だなと思うんです。
あえて「天分」という言葉を使いますが、子どもたちにどんなものがあるか、可能性はまったくわからないぞというのが普段僕らが考えていることなので。その(可能性の)発見のために色々な体験をしてもらおう、体験が大切ですよというのが成城学園でも考えていることで。
ご家庭でも色々な体験をさせることって常に必要だと思うんです。これは別に特殊な体験をさせる、たとえば海外に連れて行くとかそういうことではなくて、普段の勉強の中でもそういうことっていっぱいあると思うんですよ。親にとってはもう、もちろん過去に習ったことですけれども、掛け算の九九を習うのでも子どもたちは初めて出会うわけですよね。その時に何か思い込みを持たないようにさせる、するということが大事かなと思うんです。
小学校の子どもになってしまうと結構忘れてしまいますが、思い出していただきたいのは、たとえば赤ちゃんが初めて離乳食を食べる時、初めてにんじんを食べる時、初めておやつを渡した時、初めてお散歩した時…別にこうあるべきというのはなくて、先入観を持たずに体験させたり一緒に時間を過ごしたりしますよね。
さっき僕が少しお話した「同じ場所で同じ方向を見ている」というのが、子どもと接する時のごくごく第一のステップ、基本的なスタンスだと思うんです。
わざわざこんなことを言わなくてもいいかもしれませんが、同じものを見て「きれいだなぁ」とかそんな言葉にしなくても同じ時間を過ごすということ、これが大事なんじゃないかなと思うんですよ。
どうしても(私は)理科の生物の教員なのでマニアックな話になってしまうのですが、たとえば、キノコの専門家と山に入ると、いっぱいキノコが見えてくるんですね。あるいは野生動物の保護や研究をしている人たちと山を歩くと「山の道」などあらゆるところに動物の痕跡が見えてくるんですね。そういうプロフェッショナルの人たちが、僕ら素人に対して何をしてくれるかというと、ただ「ほら」と言って指をさすだけなんです。その時に「これは何だよ」というふうに言うのではなく「ほら」と言って。僕らがそれをじーっと見て「これはなんだろう」と考える時間をくれたりするんですね。これがやはり大事なことかなと思うんですよね。
おおた:
深いですね…
中村:
いえいえそんな、深いことを言っているつもりはないですが。
で、その時に、たとえば子どもだったら、お母さんが「ほら」と言っても興味を持たないことだってあるかもしれません。でも10回に1回ぐらいは「なになに?」と言ってくれるかもしれない。その時に「これなんだろうね」と一緒に考える時間は大事かなと。これが「同じ時間に同じ方向を向いている」という。これは対面じゃないですよね。
おおた:
ほんとですね。
中村:
こういったところが大事なんじゃないかなと思いますし、アクティブラーニングだとか主体的な学習という言葉は今、教育現場でごくごく普通になっていますけれども、ちょっとそのベースのところで「(1)」というもっと大前提を大事にしたいな、大事にしてほしいなと思っています。
<確認クイズ>
(1)に当てはまる言葉は何でしょう?
中村:
僕自身のことですが、理科の教員として、生徒が「ねえ先生、何をやってるの?」と言ってくれるのは本当に嬉しくて。これは親子関係でもあるのではないかなと。
受験勉強、中学受験が大変なご家庭はあると思いますし、お子さんは大変だと思いますが、一回ちょっとその時の気持ちを思い出してみるのは大事なのかなと思います。ちょっとわかりにくい表現だったかもしれませんけれども。
おおた:
いえいえ…とっても伝わります!言葉にのせるのはすごく難しいメッセージだと思いますが、でもやはり、体感としてわかりますよね。
子どもと――先生は「同じ方向を向く」という表現を使われましたし「一緒の時間を過ごす」という表現も使われましたけれども、(それ以外の表現として)あるいは、「同じ世界に入る」とかそういう経験の尊さのことを今、お話いただいたのかなと思いますし、色々な道のプロと一緒にそういった時間を過ごす時に、彼らが指をさすだけだというのがすごく示唆に富んでいる。そこでついつい、親は欲があるからきっと色々な情報を伝えようとしてしまうんですよね。(でもそこで)子どもの呼吸にあわせてあげるというか、引っ張り過ぎないということも大事なのかなと、聞いていて思いました。
中村:
成城学園も他の学校もそうかもしれませんが、100周年を迎えて、新しい色々な仕組みを考えようと、教育改革として動いてはいるんです。実際にいろんな、たとえば、英語教育をどうしようか、ただの英語教育ではだめだから国際理解教育に進めようという形の改革ももちろん進めていますし。成城大学自体がいわゆる文系の大学――文系を理系をわけるのはあまり好きではないのですが――なのでどうなのかなとも思いつつ、新しい校舎が2016年にできた時に理科室は、この規模の学校にしては多い8教室(を作りました)。
このように色々工夫していますが、そのベースにあるのはやはり色々な体験をしてもらいたいなあということにあります。
ちょっとわかりにくい表現だったかもしれませんが、成城学園の特長というのはそういうところで。
おおた:
一緒の時間を過ごす。時間を過ごすというと今、タイムパフォーマンスみたいなことが言われがちな風潮の中で、でもやはり、子どもが育っていくのに必要な時間、「間」みたいなものがあろうかと思うんですよね。それがあってこそ本当の体験が得られる。情報だけ詰め込めばいいわけじゃないんだ、体験もお金を払って効率よく一度やってみるみたいなそういうことではなく、しっかりと心にしみこませるための時間って必要だよね…というようなことを今、改めてお話をうかがっていて思いました。ありがとうございます。
校長室訪問、今回は成城学園中学校高等学校の校長、中村 雅浩 先生にお話をうかがいました。中村先生、ありがとうございました。
今回の内容のご感想やコメントなど、ぜひお送りください。
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