この記事は、文化放送PodcastQRで毎週月曜日に配信されている「【中学受験】おおたとしまさの『校長室訪問』」の内容を、確認クイズ付きでWeb再録したものです。
配信内容の主要部分を書き起こすとともに、その一部を「穴埋め(ブルダウン式の三択)」クイズにしております。
番組を聴きながら穴埋めを完成させて、楽しみながら学校への理解を深めていただければ幸いです。
今回お届けするのは、
武蔵野東中学校(東京都 小金井市)の校長である菊地 知恵子先生のお話です。
番組の聴取は下記より↓↓
【大切なお願い】
※このWeb再録は、「【中学受験】おおたとしまさの『校長室訪問』」をより楽しんでいただくための取り組みとして、文化放送様の許諾をいただいて実施している特別企画です。
クイズを楽しんでいただいたあとは、ぜひページ末尾のアンケートフォームから、番組のご感想やリクエストなどをお送りください。
この企画を続けていくことができるかは皆さまのお力にかかっております。ご協力、どうぞお願いいたします!
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Topics1:教育の特色
共生社会のリーダーを育てる混合教育
おおたとしまさ氏(以下、おおた):
それでは、武蔵野東中学校の校長、菊地 知恵子先生にお話をうかがっていきましょう。菊地先生、よろしくお願いします。
武蔵野東中学校
菊地 知恵子 校長(以下、菊地):
よろしくお願いします。
おおた:
(中略)実はですね、この番組では圧倒的に中高一貫校(という形の学校)の校長先生にお話をうかがってきたのですけれども、(御校は)中高一貫校とはちょっと違う学校なわけですよね。
菊地:
そうですね。
おおた:
それも後ほどうかがっていきたいと思うのですが。
まず、武蔵野東中学校はどのような場所にございますでしょうか?
菊地:
武蔵野東中学校は、東京都の小金井市にある学校です。雰囲気としては都下ながら緑の多い住宅地の中にありまして、周辺には小金井公園があり、大学も多い地域です。
おおた:
そうなんですね。最寄り駅はどちらになるのですか?
菊地:
最寄りはJR中央線の東小金井駅です。(駅から)歩いて8分ぐらいです。
おおた:
わりと近いのですね。そういう環境にある武蔵野東中学校なのですが、先生からご覧になって武蔵野東中学校はどんな学校だと言えるでしょうか。
菊地:
小規模ながらも、生徒たちが自分たちで活動する生徒会があったり、行事や部活が盛んであったり、非常に活発な雰囲気のある学校なんです。先ほど(のお話にも)ありましたけれども、一番の特色は、私立には珍しく、上級校として「普通高校」を持たない、全員が高校受験をする「進学校」としての私立中学校ということになります。
おおた:
そこがすごく珍しいですよね。校風とか生徒さんの雰囲気は、先生からご覧になってどういう生徒さんだと(思われますか)?
菊地:
わざわざ高校がない学校として選んできますので――生徒たちは自分たちで次に高校受験をするんだということがわかって入ってきていますので――非常に積極的に勉強する子たちです。
ただ学習をするということだけではなく、私たちの学校は最近、教育の重点として、新たな価値観を創造するための本質的な学びができる、そういった生徒を育てていきたいと思っています。
これから子供たちが大人になっていったときに、今の世の中と違う世の中を作る(必要があり)その時には新しい価値観が作られるのですけれども、(そこで)色々な価値観を認め合う・人々のつながりを作ることができるリーダーになってほしいなぁという気持ちがあるんですね。
おおた:
多様な価値観を持っている人たちを結びつけ、一体化していくというような意味でのリーダーということですね。
菊地:
そうですね。もう一つの特色として、武蔵野東学園には自閉症の子どもたちが一緒に学ぶという教育があります。われわれはそれを「混合教育」と呼んでいます。クラスや授業は別なのですけれども、そういった障がいのある子が学校の中にいて、その子達と一緒に行事とか学校生活を作り上げていくという経験が、まさしく将来の「共生社会」のリーダーたちになれるそういった資質、そんなものが学校生活で養われる、そんな特色があります。
(中略)
(全校生徒の)3分の1ほどですね。クラスや授業は別なので、一緒にするのは、学校生活で一緒にできる清掃だったり行事だったりそんな部分なんですけれども、「やってあげよう」という意識ではなくて本当に仲間として一緒にできるという特色があります。
コラボ授業と探究科がユニークな発想をのばす
おおた:
混合教育というのは、英語では「インクルーシブエデュケーション」という言い方でよろしいですよね。今、ようやく日本でもそういったことの必要性が言われるようになってきていますけれども、これを以前から御校では行ってきていて。混合教育をしていきながら、かつ、中学生たちは高校受験に向けてそれぞれの目標を掲げて頑張っている、そのように3年間過ごしてる学校なのかなと思います。
菊地:
混合教育のことはよく言われるのですが、健常児の教育においては、教育の特色が他にもあるのです。
1つは、一番最初に言った生徒会活動ですけれども、普通、中高一貫だと高校生がリーダーシップを取ると思うのですが、中学校までの学校なので、中3が一番のリーダーになります。本校の委員会は、人数制限もなく全員が入りたい委員会に入って、新しいビジョンを考えて毎年新しいことをやりなさいという方針です。
そうすると、中三のリーダーたちは、先輩たちがやったことをなぞるのではなくて、本当にまるごと行事や学校生活を私たちがやらせていくという方針なので、その中で毎年新しいことをやっていくんです。(これにより)中学生ぐらいになりますと自分の力でいろいろやっていくということが楽しい時期なので、子供たち自身の人間性がすごく成長します。
それから、学習の面でも独自のものがあります。(中略)教科横断型の「コラボ授業」といっているのですけれども、いくつかの教科の先生が一緒になって授業をするコラボ授業が割と頻繁にあります。
その先には「探究科」という授業があるんですね。探究は最近どこの学校でもやっていると思うのですが、本校では15年前から(やっています)。「探究科」という授業のコマがあり、それは先生が教えるのではなくて、まだ答えが出ていないようなことについて子供が問いを立ててオリジナルの答えを出す経験を積んでいくというものなのですけれども、それがなかなかユニークなものが多くてですね。
たとえば、ディズニープリンセスを探究するのですけれども、昔と今はどれだけ違うかということを映画を全部見てそれを分析していくと。
おおた:
すごく社会学的ですね!
菊地:
そうなんですね。他には、リサイクルに特化した紙の傘をいくつも作って、実際に使えるものを作ってみたり。捨てなくていい傘を作ろうということをやったり。将来的に海の上で浮かんで暮らせる暮らしをしたらどんなことができるかとか。非常に(1)な工夫なんですね。
おおた:
本当ですね。(1)というかなんというか、自由な発想ですね!
菊地:
大人がすぐ考えつかないようなものを考えついて、そういったことを探究していくんです。それが、全国コンクールに出すと全国で2位とか3位とかそんなのを取ってくるように最近はなっています。
おおた:
非常にユニークですものね。
菊地:
ちょっとそんな特色のある勉強もしています。
おおた:
先ほどの生徒会ですとか委員会のいわゆる「自治」の部分について、今、主権者教育なんていうことがまた言われていますけれども、それ以前の問題というのか――要するに、自分たちで社会を作っていく・自分たちで共同体を運営していくというのはどういうことなのかという原体験ができますし、さらに、身近に混合教育をしているということで自閉症をお持ちの生徒さんだったりも一緒に生活をしていて、本当の意味でのインクルーシブな社会を作っていく担い手を――先生は先ほどリーダーというふうにおっしゃいましたけれども――いわゆる昔のマッチョなリーダーではなくこれからの社会、共生社会に必要とされているリーダーの素質が育まれているのかな、なんていうことが今のお話から伝わってきました。
<確認クイズ>
(1)に当てはまる言葉は何でしょう?
Topics2:沿革と校風
15歳には「未完成なりの完成」がある
おおた:
非常にユニークな教育を行っている武蔵野東中学校さんなわけですけれども、こういう教育、あるいは校風はどういう経緯で作られてきたものなのでしょうか。
菊地:
学校の母体は武蔵野東学園といって、1964年に武蔵野市に創立された幼稚園が母体なんですけれども。創立者が次々に幼稚園と小学校と上級校を作っていきまして、今は2,300人が在籍する総合学園になっています。中学校は40年前に開校して、やはりこういった校風は「中学校までしかない」ということにはすごく関係があると思います。
つまり、中学校の生徒というのは一番(1)な時期ですよね。中高一貫校の後半の3年間と比べると、やはり、未完成だけれども未完成なりに完成していくといいますか、そういう部分があるんですね。私たちも見ていると。
中高一貫校の前半に過ぎないという年齢ではなく、子供から大人になりかけていく「絶対に人生では見過ごせない3年間」、こんなふうに思います。
おおた:
なるほど。未完成なりの完成。
菊地:
ええ。未完成なりの完成がそこにあって。面白いです。
そういったことをに特化していくと、15歳までの完成形というのでしょうか、本当に柔らかいんですけれども、試行錯誤しながら(1)に、失敗してもまたそれを立ち直っていけるという力がある3年間ですから、やはりやらせてあげようと思いますし。
(これにあたって、中学生が)高校生と違うのは、まだ失敗がすごく多いということなのです。ですから彼らにちょうど良い課題というようなところが、委員会活動であったり、それから(高校受験)。
高校受験は、塾に行かない方針なんですよ。学校で万全な対策を立ててあげるんですけれども、趣旨としては、受験とは「しなきゃいけない」ということではなく、15歳に「ちょうど良い課題」だと思うんですね。試練といいますか。
12歳の受験というのはたぶん、お母さんやお父さんの力が必要で。18歳というのはもうある程度完成していますけれども、15歳はちょうど自分の力で取り組めて、自分で、18歳よりも3年早く、3年の可能性を持って進路を決められるというところがあるんです。
そこで、塾に行くんじゃなくて自分の力で勉強して・学習して高校に入る。それがちょうど良い課題だなと私たちは思っているところです。そんなところが校風を作り上げているのではないかなと思いますけれども。
おおた:
なるほどありがとうございます。武蔵野東中学校の生徒さんは、全校生徒で300人、つまり1学年が100人平均ということになるかと思うんですけれども、その生徒さん達というのは、皆さん12歳で中学受験をしてさらに15歳で高校受験をされるという方がほとんどなのでしょうか?
菊地:
(中略)武蔵野東小学校から上がってくる生徒も中にはおります。でも半数ぐらいは(中学)受験して入ってくるお子さんが。
おおた:
半数ぐらいなんですね。そうすると中学受験の厳しさも知っていながら、15歳で、またその時とはちょっと違う親との距離感の中でもう一度受験を経験する、これがちょうど良い課題になっているんじゃないかということですね。
菊地:
はい、そう思います。
おおた:
歴史に関わるところでおうかがいしたいなと思うのですが。2つ質問がございまして。
一つは、自閉症のお子さんたちを受け入れる混合教育というのがどういったきっかけで始まったのかということ、あともう一つは、一般的な高等学校ではありませんが高等専修学校がございますよね、学園の中に。ここへの進学はどういう状況になっているのかというのをうかがってみたいなと思うのですが。
菊地:
まず、自閉症のお子さんを受け入れるきっかけになったのは創立者が幼稚園の経営をしているときに「どこの幼稚園も受け入れてくれない」とおっしゃるお母様がいらっしゃって「ではうちで受け入れましょう」と創立者が受け入れたのが始まりだったのです。
そういった方が1人、2人と増えていき、北原キヨという創立者が、教育者としての経験から「昔は健常な子も障がいのある子も同じクラスで学んでいて、お互いに学び合っていた。だから一緒にできるんじゃないか」というような経験から始まったことなんですね。
おおた:
(中略)もともとそういうねらい作ったわけではないんだけれども、そういうお子さんとのご縁があって、そこで自分たちにできることを追求して、結果、今につながっているということですね。
菊地:
はい。高等専修学校については、創立者が次々と上の学校を作っていた時に、自閉症のお子さんが社会に出るまでのあと3年間、職業教育をきちんと、準備をしてから社会に出しましょうということで、最後に作られた学校なのです。
健常児のほうは高校受験をしなさいということですけれども、現在、高等専修学校は公立などの中学校からの入学者もありまして、また新しい混合教育の形が作られている学校になります。
目的は「社会に出ていく職業教育」ということになります。ただ、大学進学を目指すお子さんもいるので、大学進学もあります。
おおた:
一般的な高等学校とは違いますけれども、高等専修学校も3年間の課程を終えると大学への入学資格が(得られるので)大学に行こうと思ったら大学に進学することも可能なわけですね。ありがとうございます。(中略)
Topics3:保護者様へのアドバイス
親が育てられない時期であることを受け入れよう
おおた:
そういう非常にユニークな教育を行っている・非常にユニークな歩みを経てきた武蔵野東中学校さんですが、武蔵野東中学校流の教育のエッセンスを、何か一般のご家庭の子育てでも取り入れるヒントあるいはアドバイスのようなものがいただければと思うのですが、いかがでしょうか。
菊地:
それでは二つ。
(一つ目として)12歳から15歳ぐらいの思春期の入り口にある子どもたちというのは、もう、親が離れていかなければならない時期になります。親御さんがいつまでも「自分が」ということではなく、親以外の人に育ててもらう、そういう覚悟を持つことではないかなと思います。(中略)学校ですと、学校の先生や友達の中でもまれていくということにゆだねることが大事かなと思います。
おおた:
それは親以外の…必ずしも大人でなくても。
菊地:
(友達など)大人ではない場合もありますよね。学校ではたぶん先生だったりするんですけれども、親以外の社会の中で育ててもらうということが重要かなと思います。
おおた:
逆に言えば、親が抱え込んじゃいけませんよという。
菊地:
そうですね。親が育てられないという時期であることを受け入れましょうということですね。
(中略)
(もうひとつのアドバイスとしては)親御さんが気にかけなければいけないのは、やはり(そうはいってもまだ)未熟なお子さんにどう心をかけるか、ということなんですけれども、本校ではよく「目に見えない手を添える」というふうにいます。
おおた:
目に見えない手を添える。
菊地:
子どもは、自分に手を添えられているとは思っていないんですよ。もう自分で勝手にやっているぞ!と思っているんだけれども、実は親御さんが「見えない手」を添えているわけなんですね。で、いろいろなことができるようになったんだなと親御さんが思ったら、手を放せば良いと。そんなところでしょうか。
おおた:
なるほど。本人に気づかれないようにそっと手を添えて、もうこれは手を離しても大丈夫そうだという時にはまた本人に気づかれないように手を離してあげて、本人は「もともと自分でできていたもんね」みたいな(笑)、それぐらいの感じで良いということですかね。
菊地:
はい。反抗期の子供でもあるので、それが良い親子関係なのではなと思います。
おおた:
御校の場合、高校受験をしながらということですから、反抗期が強く出ているお子さんでもやはり高校受験も頑張らなければいけないという時に、親御さんもすごく難しいじゃないですか、親御さんが「こうしなさい」と言うと、反抗期が強く出ているときには逆に行ってしまったりしますからね、えてして。
そういった時に、上手な距離感を保ちながらお子さんを支えていく。これを先生方もいつもそこに腐心されているのだと思いますが、ご家庭でも、親御さんがついつい抱え込んでしまいたくなるし(心配ですから)、ああだこうだとベタベタと目に見える手を添えてしまったりすると、「うるさいなぁ」「やめてよ、触らないでよ」ということになりがちだと思うのですけれども、それを、さりげなく手を添えて。本人に気づかれないように。そういう距離感が大事ですよというお話だったかなと思います。
校長室訪問、今回は武蔵野東中学校の校長、菊地 知恵子先生にお話をうかがいました。
菊地先生、ありがとうございました。
今回の内容のご感想やコメントなど、ぜひお送りください。
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