2021年4月23日(金)、「女子一貫校3校合同説明会」が開催されました。
品川女子学院中等部・高等部、普連土学園中学校・高等学校、そして今回の開催場所を提供された田園調布学園中等部・高等部 の3校の先生方が「女子校は同じようで全然違う!」を掲げ、さまざまなお話をされました。
先生方の許可をいただき、このイベントの内容の一部をここでご紹介します(内容は各校様ご確認済みです)。
皆さまの学校選びの一助となりましたら幸いです。
今回お届けするのは、田園調布学園中等部・高等部の細野智之先生のお話です。
田園調布学園の生徒さんの様子や、理系志望者が多い理由――特に、理科や数学への苦手意識をリセットして、興味関心を引き出す教育についてお話いただいた部分を抜粋・再構成しました。
Contents
田園調布学園の概要
実体験を重視した活動を重視する学校
本校の建学の精神は「捨我精進(しゃがしょうじん)」といういう言葉です。
(※仏教の言葉を借りていますが、本校は無宗教の学校です)
わがままな気持ちや甘えた気持ちを抑え目標に向かって努力精進していく、今の自分を一歩乗り越えていくという思いが込められています。
この建学の精神のもと、私たちは、実体験を重視した活動を行っています。
まもなく創立100周年を迎える学校です。
楽しく元気、自分の居場所がある学園生活
本日はやはり生徒の雰囲気、様子をお伝えしたいと思いまして、中等部1年生にインタビューした動画がありますのでこちらをご覧ください(今年3月に撮影したもの)。
動画で生徒の雰囲気をご覧いただきました。
田園調布という土地柄、なんとなく「おしとやかな生徒が多いのかな?」という印象を持っておられるかたも多いのかなと思うのですが、生徒たちはこんなふうに明るく、楽しく、元気に、そして自分の居場所がある、そういった学園生活を送っています。
私自身、中等部1年生の授業を今年も担当しています。
生徒たちが、なるべく周りの仲間たちと一緒に授業に参加できるように、そんな雰囲気作りをしながら、授業やクラブ活動を通じて仲間の輪が広がっていくような、そういったことを心がけて生活を送っています。
理系選択者が多くなる背景には…
この春の卒業生ですが、本校も、理系進学者の割合が比較的大きい学校です。
本日は、なぜこんなふうに理系の割合が多いのかや、どうやって生徒たちの興味関心を高めているか、また、入学当初は理科や数学の苦手意識を持っている生徒さんもいる中でそういった部分のリセットをどのようにしているのか、そういったところを中心にお話ししたいと思います。
「中高6年間でこのレベルまでできる」が目に入る環境
まず、なぜ理系の割合がこのように高まっているのか?ですが、やはり、中高6年間でこのレベルまで、こんなことまでできるようになるんだということ、そして、こんなところに数学や理科が関わっているんだというそういった部分を生徒たちにインプットする。そこが結構大事かなと思っています。
たとえば、これは――少しマニアックな取り組みなのですが――関数グラフアートといって、グラフを使って絵を描くという取り組みです。7~8年前からやっています。
授業で習ったものを使ったり、授業で習っていない関数についても基本的なところをちょっと教えただけで、生徒たちは、自分たちがこういう絵を描きたいな、こういうものを表現したいなというものを、1人1台持っているChromebookのアプリを使って、こんなふうに仕上げていきます。
これも、先輩の作品などをさりげなく廊下に飾ってあったりするんですね。そうすると「このレベルまで先輩ができるようになるんだったら、私もここを超えていこうとか「このレベルまで頑張ろう」とかそういった感じになるので、どんどんどんどんレベルが上がっていっているのかなと思います。全国大会や国際大会でも入賞している作品をここに挙げました。
教科横断型授業でさらに興味関心をのばす
もう一つ、興味関心をのばすもの、こんなことができるようになるんだ!というものして、教科と教科をつなぐ「教科横断型授業」を色々な学年で行っています。
例えばここに挙げたのは、高等部2年生で行った物理と数学の横断授業です。シャボン液を利用して実際の実験をしながら、フェルマー点を計算で求めていくというものです。
こういうふうに、理科の知識と数学の知識を合わせて1つのことを見ていく、そんな教科横断型授業を行いながら、生徒たちの興味関心をのばしたり、こんなことまでわかるようになるんだなというレベルを中高6年間で体験させる。これが非常に大事じゃないかないうふうにわれわれは思っています。
苦手意識をリセット
身近な文房具でこんな授業ができる
ここまではレベルの高い事例を挙げてきましたので、最初からそんなレベルの高いものをやるの…?と思われる方もいらっしゃるかもしれません。そこで次に、中等部1年生ではこんな授業やっていますよ、というものをちょっとお見せしたいと思います。
デザイン定規――これを使ったことがあるかたは保護者様にも多いのではないかと思いますが――は、実は数学のおもちゃなのです。数式が隠れています。数式を立てることによって、描く前から「これとこれを使うとどんな模様になるか」がわかるのです。
その謎を解明し、そして、その模様を使って違うものに見立てるという数学と美術の教科横断型授業を、中等部1年生の一番最後の方でやっています。
生徒たちは、解明したものを使ってこのようにハムスターが回転しているところに見立てたり、天体だったり、背景を描いてみたり…こんなふうに「こんなところに数学があるんだな」「わかったことを使って、自分なりに想像力を膨らませていこう」という授業です。
数学はあまり好きじゃないけど美術は好き!という生徒はけっこういるのです。そういう生徒たちが、美術だったらやってみようかな?あれ、意外と数学面白いじゃないか、とそういうきっかけにつながりやすいかなと思っています。
細野先生は、この「数学×美術 デザイン定規の模様の“見立て”」で、東京理科大の2019年度 第12回《算数/数学・授業の達人》最優秀賞を受賞しておられるそうです。(出典はこちら)
豊富な実体験も苦手意識のリセットに貢献
「体験」という言葉は色々な女子校さんから聞かれると思います。
本校も体験を重視しています。
やはり女子は、実体験、具体的な事例から物事を考えることに長けているなと思います。抽象的なものから入るよりも、具体的なものや体験があるからこそ、想像力や思考力がどんどん回っていくんですよね。
だから、こういった実体験が理科や数学などが苦手意識のリセットにもつながっていると我々は信じております。
そういう意味で、理科の実験も中高6年間で約150ぐらい行っています。中1・中2に関してはほぼ毎週実験をやっています。これも、理科や数学の苦手意識のリセット。
理科の教員に聞いたのですが、共学校ですとどうしても男子がばばばばっと実験をやってしまうというケースが少なくないらしいのです。でも、女子校では女子しかいませんので、みんなで協力して実験を行う。
そして、本校のちょっと変わった特徴は、実験の班を結構変えるんですね。実験の班がいつも同じだと役割分担が決まってきて(実験を)やらない子もでてきてしまうこともあるのですが、班のメンバーが変わると、自然と「じゃあ、今度は私がやろうかな」というふうに主体的に動くようになる。そんなところも本校の苦手意識のリセットにつながっていると考えています。
リミッターを外し世界を広げる
本校では年14回ほど「土曜プログラム」を実施しています。
学年ごとにテーマが決められているコアプログラムでは、たとえば「空中ディスプレイ」のような最先端の内容にも取り組む中で、自分の中のリミッターを外していきます。
自分の興味関心があるものを選ぶマイプログラムには本当に多種多様な講座があり、大半は外部の講師、その道のプロをお招きしています。
自分が本当にやりたいもの、興味があるものを見つけていってほしいと思っています。
進路面談では生徒の希望を重視
このような形で、理科や数学の興味関心、ここまでできるんだという思い、そして苦手意識のリセットの部分があるからこそ、理系の割合が高くなっているのではないでしょうか。
ただ、私たちの進路指導は「理系に行きましょう」とはまったく言わないです。逆に、数学や理科の成績に(その時点では)少し難がある生徒であっても、本人が理系を希望する場合は具体的なプランを示してサポートをしていく、そんな進路指導をしておりますので、結果的に(文系と理系が)ほぼ半々ぐらいの割合になっているのかなと思います。
(以上)